(俳号・漂木)

「連句へのいざない」
- 第4集 -

一面に異国も染まる蔦かずら

しぶき立つ白雨(ゆうだち)過ぎて古都の閑

おこぼれをせっせと拾う冬ごもり

長ぐつにひかり射しこむ麦の秋

軽やかに時刻の過ぎゆく小夜千鳥

鮎落つる短き生命仔にたくし

かざはなのかかる窓辺に誘われて

まばたけばたぬき振り向く藤のかげ

高らかに筆津虫鳴く静けき夜

まぶた打つ雪解(ゆきげ)しずくのシンフォニー

 

- 第3集 -

のどかさや 寝そべりし犬 夢の中

窓の内暖とる春の寒さかな

白き球 とびかう声に 風光る

ぶらんこのコツ教え合う者ふたり

新学期 すす払う手に わすれ雪

細道の 足あとの飛ぶ 凍ゆるむ

石段を登るあしおと鐘おぼろ

手を伸ばし 春の香寄せる 椿餅

しわふえた顔ゆるませて畔を塗る

やまみちの 振り返る先 夕きぎす

 

- 第2集 -

澄み空に かげろうのごと 富士の山

帆立なべ 白湯気の向こう 笑ふ顔

永き日の よちよち歩き 見守る手

妹が 先に迎える 卒業式

結び目の 巨大なネクタイ 山笑ふ

子供らの おやつの残り バナナ食む

実験台 見慣れぬ黴に 苦笑い

川の名も 知らずせせらぐ カワセミも

蓮の葉や 暑さしのぐか 源平池

夕立に とりのこされて 雨やどり

 

- 第1集 -

黒き富士 なごり月夜に シルエット

傘の花 アジサイの中 競い咲く

汗転ぶ 顔とあさがお ひしめいて

夕焼けて 照れ顔のぞく 富士の山

舞う花火 競い輝く 星ひとつ

立ち穂の間 ネオンきらめく 蛍かな

高き声 急に身を寄す おじぎ草

洋曲の 風鈴のごと 夏の夜

まばたけば 今消えつつあり 夢花火

向日葵の 軒越える背を 見下ろして


最終更新日:2000年 7月 9日